短冊手鑑/小松茂美/限定500部/定価68000円/500人におよぶこの短冊手鑑は永く筆跡鑑定のかがみとして広く活用されることを信じて疑わない

商品説明
短冊手鑑/小松茂美/限定500部/定価68000円/五百人におよぶこの短冊手鑑は永く筆跡鑑定の「かがみ」として広く活用されることを信じて疑わないものである

1983年 別冊付属 582P 外箱サイズ28cm×39cmの大判です。部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。


手の届くかぎりのものを集めてみても、一人の人の短冊を、三枚、五枚と寄せることは、そんなにむずかしいことで はない。それらを相互に比較すると、署名の書体がぴたりと適合する。筆跡の個性というものが、これほどまでに相似性 を示すものか、と驚きを禁じ得ないのである。と同時に、若い時のものと、壮年期以後のものとでは、手の習練の跡が歴 然とする。まことに興味深いことである。およそ短冊は、南北朝時代から室町時代を経て江戸初期が全盛期である。これ らの時代に生きた、多くの人のたしかな筆跡を求めるとなると、短冊以外にはない。これは、筆跡鑑定の基準となるでは ないか、という思いが私の脳裏をかすめた。いつのころからか、短冊の写真を一点一点集めておいた。とはいっても、そ れはおびただしい資料写真の中のほんの一部分でしかなかった。

私は、これらの短冊を集めて一書を編むことを企図した。幸い講談社が、私の考えに援助の手をさしのべてくれた。こ と、二、三年間は、短冊を求めてカメラマンと編集部とが東奔西走した。集まったものが、ようやく本書の形となったわ けである。ただし、当初、私がこれをもって筆跡鑑定の指針に備えようとしたために、署名のあるものにかぎった。たと えば、古いところでは後宇多天皇、あるいは、室町時代の歴朝の宸翰と伝える短冊の一群の写真が集まった。 後柏原・後 奈良天皇、あるいは、正親町・後陽成天皇などのものは、その筆致や書風から、明らかにその宸翰と断定できるものが少 なくない。が、即位後の天皇は、短冊には署名しない、というのがしきたりであった。私の眼識によって断定するのも、 また、よしとも考えぬではなかった。が、この本の恒久性を考えて、やはり当初考えたように、署名入りのものにかぎ る、という原点は崩さないことに決意した。しかし、これら歴代が親王当時にしたためたものには、署名がある。それは 採用した。したがって、いずれもが東宮時代の若年の執筆である。 壮年から老年にかけての筆歴の変化を、この短冊から はたどることができない。それは、別に書道史研究にゆだねることにしたい。と、こんな意味合いから、天皇の短冊は親 王時代のものにかぎった。また、女性の短冊も少なくはない。が、これまた、明らかに署名を加えたものとなると、範囲 がかぎられる。豊太閤の醍醐の花見における短冊(巻頭・原色図版)などは、その珍しい例の一つである。

昭和五十八年五月五日
ともあれ、五百人におよぶこの「短冊手鑑」は、永く筆跡鑑定の「かがみ」として、広く活用されることを信じて疑わ ないものである。なお、この編集に当たって、 株式会社講談社の全面的な協力に対して、満腔の感謝を捧げるものであ る。とりわけ、写真の撮影に際して、阪口正朝氏の献身、また、編集に当たっては、大村梅雄氏をはじめ森孝一氏・浜野 佐知子さんの助力に、心からお礼を申し上げる。
小松茂美


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